Tシャツの上にベスト型の白衣、下はGパン、頭には野球帽。はじめてのお遍路は、第1番札所・霊山寺の売店で道具をそろえるところから始まりました。
「どんな服装で行けばいいのか」「作法を間違えたら恥ずかしい」。出発前はそんな不安ばかりでした。この記事では、クルマで四国八十八ヶ所を回った経験から、実際に選んだ服装と道具、参拝の流れ、クルマ遍路ならではの準備をまとめます。シリーズの入口の記事です。
情報確認: 2026年9月(納経料・納経時間などは変わることがあります)
服装:正式な装束と、実際に選んだ装い
正式な遍路装束は10点以上
お遍路の服装を調べると、まず出てくるのが正式な遍路装束です。
- 白衣(はくえ・びゃくえ)、白ズボンまたは白袴
- 菅笠(すげがさ)、金剛杖(こんごうづえ)
- 頭陀袋(ずだぶくろ)、輪袈裟(わげさ)、数珠
- 脚絆(きゃはん)、手甲(てっこう)、持鈴(じれい)
「これを全部そろえるのか」と正直圧倒されました。費用もかかりそうです。とはいえ、それなりの格好はしたい。
霊山寺でそろえた「現実的な装い」
巡拝に必要なものは、第1番札所の霊山寺ですべて買いました。最初の巡拝で身につけたのは次のとおりです。
- 白衣(Tシャツの上に、袖のないベストタイプを重ね着)
- Gパン
- 野球帽(のちにモンベルの「かぶる日傘」へ)
- 金剛杖・数珠・輪袈裟
- ビニール製の頭陀袋
- 歩きやすいトレッキングシューズ
白衣は絶対に欲しかったものの、袖のある本格的なものではなく、Tシャツの上に羽織るベストタイプにしました。暑い季節だったのと、汗をかいてもTシャツを替えれば済み、洗濯もしやすいと考えたからです。数珠と金剛杖は「せっかくなら」という気持ちで買いました。
札所で見た服装はさまざま
実際に回ってみると、参拝者の服装は本当にいろいろでした。
- 白装束をすべてそろえた人(少数)
- 白衣だけ羽織った人(多数)
- 普段着の人、観光客のような軽装の人
服装で浮くことはまったくありませんでした。白衣だけでも、お遍路さんとして十分に見えます。
夏に回るなら
夏の巡拝で身にしみたのは、暑さへの備えです。
- 白衣の下は速乾性のインナーに
- 菅笠は日よけとして想像以上に役立つ
- 汗拭きタオルは多めに
- 飲み物は大容量のボトルで
用具:参拝のたびに使うもの
- 納経帳: 御朱印をいただく帳面。納経料は1ヶ寺500円です(2024年4月に300円から改定)
- 納札(おさめふだ): 本堂と大師堂に1枚ずつ納める。住所・名前・日付は事前に書いておくと現地で慌てません
- 経本
- ローソク・線香・ライター
- 小銭: お賽銭などで想像以上に使います
納経所では、御朱印と一緒に本尊の姿を刷ったお札「御影(おみえ)」もいただけます。
集まっていく楽しみ
札所を回るたびに、納経帳が1ページずつ埋まっていきます。札所ごとに筆の字も朱印の形も違い、同じものはひとつもありません。御影もホルダーに2ヶ寺ずつ並べていくと、仏さまの姿がどんどん増えていきます。
納経帳のほかに、白衣に朱印をいただくこともできます(1ヶ寺300円)。2周目からは同じ納経帳に朱印を重ねてもらう「重ね印」になり、何周もした人の納経帳は朱で真っ赤になっています。
四国には、お遍路さんにお茶やお菓子をふるまう「お接待」の習慣も残っています。
参拝の流れ
- 山門: 合掌して一礼(菅笠はかぶったままでよく、お堂に上がるときだけ脱ぎます)
- 手水場: 左手・右手・口の順に清める
- 鐘楼: 鐘は参拝の前に撞く。参拝後に撞く「戻り鐘」は良くないとされ、鐘を撞くこと自体を禁止している寺もあります
- 本堂: ローソク1本、線香3本を立て、納札とお賽銭を納めて読経。ローソクの火は自分でつけます(他人の火からもらうと、その人の業をもらうとされます)。ローソクは奥から、線香は中央に立てます
- 大師堂: 本堂と同じ手順でお参り
- 納経所: 納経帳に御朱印をいただく
- 山門を出るとき: 振り返って合掌し一礼
頭ではわかっていても、第1番の霊山寺では緊張しました。「線香は何本だったか」「納札はどこに入れるのか」と、手順を思い出しながらのお参りでした。
読経の順序
合掌して三礼したあと、次の順に唱えます。
- 開経偈(かいきょうげ) 1回
- 般若心経 1巻
- 本尊真言(札所ごとに異なる) 3回
- 光明真言 3回
- 御宝号「南無大師遍照金剛(なむだいしへんじょうこんごう)」 3回
- 回向文(えこうもん) 1回
最後に合掌して一礼します。
般若心経は練習していったものの、はじめは般若心経だけで精一杯で、声も小さくボソボソと。隣で参拝していた年配の方の、堂々とした読経を聞いて「こんなに違うものか」と思ったのを覚えています。
失敗談:菅笠を脱ぎ忘れる
野球帽を卒業して買ったのが、少し変わった「菅笠」です。モンベルのフィールドアンブレロという、頭にかぶる日傘で、形が菅笠によく似ています。
この笠をかぶったまま、本堂で脱ぎ忘れる失敗を何度かやりました。
ある札所では、靴のまま本堂の敷居をまたいで屋根の下に入り、中でお参りをしました。お参りを終えて、そのまま中を見学していたときに、お坊さんから「素敵な菅笠ですね」と声をかけられました。少しお話をして、そのときは「菅笠を褒められた」とうれしく思ったものです。
ところが、あとでよく考えてみると……。お坊さんは菅笠を話題にすることで、「脱ぎなさい」とそれとなく気づかせてくれたのではないか。真意は今もわかりません。考えすぎでしょうか。
この記事を書くにあたって調べてみると、菅笠は札所で読経するときも、お坊さんの前でも、かぶったままでよいとされていました。菅笠には「同行二人」と書かれていて、弘法大師と一緒に巡る修行中の姿だから、という考え方です。
脱ぐのは、履物を脱いでお堂に上がるときだけ。あのときは靴のまま中に入ってお参りしていたので、本物の菅笠なら作法どおりだったことになります。ただ、私がかぶっていたのはモンベルの日傘。お坊さんの目に「菅笠」と映ったのか「帽子」と映ったのか。やはり真意はわかりません。
お参りのときは、野球帽などの普通の帽子は脱ぐ。菅笠はかぶったままでよいけれど、お堂に上がるときは脱ぐ。これだけ覚えておけば安心です。
金剛杖の扱い
金剛杖は弘法大師の分身とされ、扱いにいくつか決まりがあります。
- お堂に上がるときは外に立てかける
- 橋の上では杖をつかない(橋の下で休む大師を起こさないため、という言い伝えから)
- 宿に着いたら杖の先を洗い、部屋の上座に立てる
5ヶ寺ほど回るころには、手順は自然と身につきました。後ろの人の邪魔にならないよう、お堂の正面を少し外して立つのもそのころ覚えたことです。
右側?左側? お遍路の「向き」
神社では参道の真ん中を避けて歩き、右側か左側かが決まっている神社もあります。お寺はどうなのか、気になって調べてみました。
四国を回る向き:順打ちは時計回り
第1番から番号順に回る「順打ち」は、徳島→高知→愛媛→香川と、四国を時計回り(右回り)に一周します。いちばん一般的な回り方で、私も順打ちでした。
反対に、第88番から逆にたどる「逆打ち」は反時計回り(左回り)。うるう年に逆打ちをするとご利益が3倍になる、という言い伝えがあります。元になったのは衛門三郎の伝説です。弘法大師を追い返した罪を悔いて大師を追い求めた三郎は、順打ちで20回回っても会えず、21回目にうるう年に逆に回って、第12番焼山寺の手前でようやく大師に会えたと伝えられています。
お寺の中の順番:本堂が先、大師堂が後
境内でのお参りは、本堂(ご本尊)が先、大師堂(弘法大師)が後が基本です。ただ本堂が混んでいるときは、大師堂を先にしてもかまわないとされています。
本堂と大師堂の順番のほかは、お参りの順に決まりはありません。
境内は右側通行?左側通行?
神社で参道の真ん中を避けるのは、中央を神さまの通り道「正中(せいちゅう)」と考えるからです。その神社本庁でも「参道の歩き方に厳格な決まりはない」としていて、右側か左側かは神社ごとに違います。
正中は神社(神道)の考え方です。お遍路の参拝作法を調べても、境内を右側通行・左側通行で歩くという決まりは見当たりませんでした。札所では、どちら側を歩いても作法違反にはならないということです。
気をつけたいのは、向きよりも人の流れです。団体の参拝者が多い札所では、本堂の前が読経の人でいっぱいになります。お参りを終えた人の邪魔にならないよう、通路を空けて歩くほうがずっと大事です。
クルマ遍路ならではの準備
1日の計画は納経時間から
納経所の受付は8時から17時までです(2024年4月に、それまでの7時から8時に変更)。1日に使えるのは9時間。この時間に何ヶ寺回れるかで、その日の計画が決まります。
札所が近くに集まっている区間なら、クルマで1日8ヶ寺ほど回れます。高知市周辺の第28番〜35番は、朝8時台に始めて最後の札所を終えたのは17時すぎでした。
駐車場と道幅
多くの札所には無料の駐車場がありますが、有料や志納制のところもあります。山の上の札所には、クルマ1台分の幅しかない道が続くところも。大きめのクルマで回るなら、各記事の「アクセス・駐車場」を事前に見ておくと安心です。
泊まる場所
クルマなら、宿を取らずに道の駅で車中泊しながら回ることもできます。温浴施設のある道の駅を選べば、1日の汗を流してそのまま休めます。シリーズの各記事で、実際に泊まった道の駅も紹介しています。
回を重ねて変わったこと
第10番あたりまでは、「作法を間違えていないか」「服装は変じゃないか」ばかり気にしていました。回数を重ねるうちに、そんな心配はだんだん気にならなくなります。
ある大きなお寺でのこと。読経を終え、本堂を出るときに振り返って一礼しました。神社で鳥居をくぐるときと同じ、いつもの習慣です。すると、お寺の方と思われる年配の女性に「本堂から出ていくときに礼をする人は、めったにいません」と声をかけられました。褒められることなどめったにないので、今でもよく覚えています(褒められて伸びるタイプかもしれません)。
第20番を過ぎるころには、作法よりも「今日も無事にお参りできました」という気持ちが先に立つようになりました。読経も、完璧でなくても心を込めて唱えられるように。弘法大師と二人で巡るという「同行二人(どうぎょうににん)」の意味が、頭の理解から実感に変わったのもこのころです。
これから始める方へ
服装と道具
- あるとよいもの: 白衣(Tシャツの上にベストタイプを重ねれば十分)、菅笠、数珠、動きやすい服と靴、納経帳
- なくても大丈夫: 白装束一式、高価な道具、頭陀袋(普通のバッグで代用できます)
- どこで買う: 第1番霊山寺でひと通りそろいます。手ぶらで行っても始められます
作法
- これだけは: 般若心経と御宝号「南無大師遍照金剛」、参拝の基本の流れ
- 現地で覚えればよいこと: 札所ごとの細かな決まり、他の参拝者から教わる工夫
最後に
出発前は「ちゃんとできるだろうか」と不安でしたが、回ってみてわかったのは、お遍路は完璧を求められる場所ではないということです。Gパンに野球帽で始めた私でも、ちゃんと最後まで回れました。服装や作法で迷っているなら、霊山寺で白衣を1枚買うところから始めてみてください。
次回からは、3回に分けて回った区切り打ちの記録です。第1番霊山寺から、札所ごとにたどっていきます。
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