はじめに
徳島県「発心の道場」23ヶ寺を結願し、いよいよ高知県へ。ここから始まる「修行の道場」は、四国霊場88ヶ寺のうち16ヶ寺を擁する最長区間です。
第24番最御崎寺から27番神峯寺までは、室戸岬周辺に位置する札所群。弘法大師が若き日に修行した聖地であり、太平洋の荒波と断崖絶壁が織りなす雄大な自然の中での参拝となります。
特に最後の27番神峯寺は、四国霊場屈指の難所「真っ縦」として知られ、「修行の道場」の名にふさわしい厳しさを体験できます。
今回巡る札所:
- 第24番 最御崎寺(ほつみさきじ)
- 第25番 津照寺(しんしょうじ)
- 第26番 金剛頂寺(こんごうちょうじ)
- 第27番 神峯寺(こうのみねじ)
走行距離: 約80km
所要時間: 丸1日(参拝・移動含む)
第24番札所 最御崎寺(ほつみさきじ)
基本情報
- 山号: 室戸山
- 宗派: 真言宗豊山派
- 本尊: 虚空蔵菩薩
- 真言: のうぼう あきゃしゃ ぎゃらばや おん ありきゃ まり ぼり そわか
- 御詠歌: 明星の 出ぬる方の 東寺 暗き迷いは などかあらまし
- 所在地: 高知県室戸市室戸岬町4058-1
- 電話:0887-23-0024


土佐国最初の札所、室戸岬の絶景
最御崎寺は、四国最南端の室戸岬に位置する高知県最初の札所です。太平洋の荒波が打ち寄せる断崖絶壁の上に建ち、「東寺(あきてら)」の別名でも親しまれています。
境内からは、白亜の室戸岬灯台が望め、青い海と空のコントラストが印象的。晴れた日には水平線が美しく、まさに「明星の出ぬる方」という御詠歌の世界が広がります。

弘法大師空海、悟りを開いた聖地
ここ室戸岬は、若き日の弘法大師・空海にとって、人生最大の転機となった聖地です。
延暦11年(792年)、19歳の空海(当時は佐伯真魚・さえきのまお)は、都での学問に満足できず、修行の道を求めて四国へやってきました。そして、この室戸岬の洞窟「御厨人窟(みくろど)」にこもり、虚空蔵求聞持法という過酷な修行を始めたのです。
明星が口に飛び込んだ神秘体験
虚空蔵求聞持法とは、虚空蔵菩薩の真言を100日間で100万遍唱えるという厳しい修行法。一日に1万遍、途切れることなく真言を唱え続けなければなりません。
空海は、波音だけが響く暗い洞窟の中で、ひたすら真言を唱え続けました。食事もわずかな木の実と水だけ。心身ともに極限まで追い詰められる日々が続きます。
そして満願の日、夜明け前の薄暗い洞窟で真言を唱えていた空海の前に、突如として明星(金星)が現れ、その光が口の中に飛び込んできたのです。
この瞬間、空海は大悟を得ました。虚空蔵菩薩と一体となり、宇宙の真理、一切の知恵を体得したといわれています。
「空海」という名の誕生
それまで「佐伯真魚」と名乗っていた青年は、この神秘体験の後、「空海」と名を改めました。
洞窟の入口から見えるのは、空と海だけ。その無限の広がりの中で、明星の光とともに宇宙の真理を悟った——この体験から「空」と「海」という名を得たのです。
御厨人窟は、まさに空海誕生の場所。ここから真言密教の祖となる偉大な僧侶が生まれたことを思うと、この地の持つ霊的なエネルギーを感じずにはいられません。



今も残る修行の洞窟
最御崎寺の山門から海岸沿いに徒歩約15分歩くと、空海が修行した「御厨人窟」と「神明窟」の二つの洞窟があります。
御厨人窟は空海が起居した洞窟、神明窟は修行をした洞窟とされています。今も波が打ち寄せ、潮風が吹き抜ける洞窟の中に立つと、1200年以上前の若き空海が、ここで命がけの修行をしていた姿が目に浮かぶようです。
洞窟の中から外を見ると、まさに空と海だけ。この景色を毎日見ながら、空海は何を思い、何を悟ったのでしょうか。
参拝のポイント:
- 本堂・大師堂での読経後、境内からの太平洋の眺めをゆっくり楽しむ
- 御厨人窟・神明窟は必見(山門から徒歩約15分、海岸沿い)
- できれば早朝、東の水平線から昇る太陽を見ながら訪れたい
- 洞窟内に入ることができ、空海と同じ視点で空と海を見られる
- 波音と潮風の中で、空海の修行に思いを馳せる特別な時間
- 室戸岬灯台周辺の散策もおすすめ(世界ジオパーク認定地域)
- 早朝参拝なら、水平線から昇る朝日が見られることも——御詠歌にある「明星の出ぬる方」を実感できる
アクセス・駐車場
- 駐車場: 無料(37台)
- 宿坊:あり(100人)
- 前札所から: 23番薬王寺(徳島県)から約75km、車で約2時間、徒歩約20時間
- 次札所まで: 25番津照寺まで約7km、車で約15分、徒歩約1時間40分
注意点:
・早朝の洞窟訪問は、日の出の時刻を調べて計画的に
・23番から24番への移動は県境を越える最長区間のひとつ。室戸スカイラインを通る山道は景色が素晴ら しいですが、カーブが多く、霧が出やすいので運転に注意
・御厨人窟へは海岸沿いの遊歩道を歩きます。波が高い日や満潮時は近づけない場合もあるので、天候と潮位を確認してから訪れてください
第25番札所 津照寺(しんしょうじ)
基本情報
- 山号: 宝珠山
- 宗派: 真言宗豊山派
- 本尊: 楫取地蔵菩薩(かじとりじぞうぼさつ)
- 真言: おん かかかび さんまえい そわか
- 御詠歌: 法の舟 入るか出づるか この津寺 迷う我が身を 乗せてたまえや
- 所在地: 高知県室戸市室津2652-イ
- 電話:0887-23-0025


港町に佇む「津寺」
津照寺は、室戸市の小さな港町・室津に位置する札所。「津寺(つでら)」の愛称で地元に親しまれ、漁師町の信仰の中心として今も大切にされています。
山門をくぐると、本堂まで急な石段が続きます。この石段は125段あり、「厄坂」とも呼ばれ、一段一段登ることで厄除けになるとされています。登り切って振り返ると、室津港と太平洋が一望でき、その眺めに登った疲れも吹き飛びます。
海を守る楫取地蔵(かじとりじぞう)
本尊の楫取地蔵菩薩は、船の「舵を取る」地蔵様として、海難除け・航海安全の信仰を集めています。
寺伝によれば、かつてこの沖で嵐に遭い遭難しかけた船が、どこからともなく現れた僧侶に導かれて無事に港へ帰ることができました。その僧侶の姿は地蔵菩薩そのものだったといい、以来、漁師たちの厚い信仰を集めてきました。
山門横には、龍の彫刻が施された鐘楼があり、港町らしい海の守り神としての雰囲気が漂います。
参拝のポイント:
- 急な石段(125段)は手すりを使いながらゆっくり登る
- 本堂からの港の眺めが素晴らしい
- コンパクトな境内ながら、海を見守る温かい雰囲気
- 鐘楼の龍の彫刻も見どころ
アクセス・駐車場
- 駐車場: 無料(約15台、山門下)
- 宿坊:なし
- 前札所から: 24番最御崎寺から約7km、車で約15分、徒歩約1時間40分
- 次札所まで: 26番金剛頂寺まで約3km、車で約15分、徒歩約1時間30分
注意点: 駐車場が狭く、周辺の道も細いため、大型車は慎重な運転が必要です。港町の生活道路でもあるので、地元の方の通行に配慮を。
第26番札所 金剛頂寺(こんごうちょうじ)
基本情報
- 山号: 龍頭山
- 宗派: 真言宗豊山派
- 本尊: 薬師如来
- 真言: おん ころころ せんだり まとうぎ そわか
- 御詠歌: 往生に 望みをかくる 極楽は 月のかたむく 西寺のそら
- 所在地: 高知県室戸市元乙523
- 電話:0887-23-0026



「西寺」と呼ばれる古刹
金剛頂寺は、24番最御崎寺の「東寺(あきてら)」に対して「西寺(にしでら)」と呼ばれています。室戸岬を挟んで東西に位置する二つの寺は、古来よりセットで参拝されることが多く、両寺を巡ることで室戸での修行が完結するとされてきました。
境内は室戸の札所の中でも特に広く、本堂・大師堂のほか、多宝塔、鐘楼など見どころが多数。静かな山中に佇み、荘厳な雰囲気が漂います。
国の重要文化財、室町時代の本堂
金剛頂寺の本堂は、室町時代に建立されたもので国の重要文化財に指定されています。風格ある建築様式は、長い歴史の重みを感じさせ、参拝者を厳かな気持ちにさせます。
寺伝によれば、弘法大師がこの地で一夜のうちに本尊の薬師如来像を彫り上げたといわれています。その際、使われた霊木は海から流れ着いた一本の木だったとか。
境内の大きな木々に囲まれた静けさの中で参拝すると、大師の存在を身近に感じられます。
参拝のポイント:
- 重要文化財の本堂は必見(外観のみ拝観可能)
- 境内が広いため、ゆっくり時間を取って参拝したい
- 多宝塔周辺の景観も美しい
- 静かな環境で心を落ち着けて読経できる
アクセス・駐車場
- 駐車場: 200円(約20台)
- 宿坊:あり(100人)
- 前札所から: 25番津照寺から約3km、車で約15分、徒歩約1時間30分
- 次札所まで: 27番神峯寺まで約33km、車で約1時間30分、徒歩約8時間
注意点: 次の27番神峯寺までは距離があり、山道を通るため時間に余裕を持って移動してください。途中の道は狭い箇所もあります。
第27番札所 神峯寺(こうのみねじ)
基本情報
- 山号: 竹林山
- 宗派: 真言宗豊山派
- 本尊: 十一面観世音菩薩
- 真言: おん まか きゃろにきゃ そわか
- 御詠歌: み仏の 恵みの心 神峯 山も誓いも 高き水音
- 所在地: 高知県安芸郡安田町唐浜2594
- 電話:0887-38-5495



四国霊場屈指の難所「真っ縦」
神峯寺は、四国霊場88ヶ寺の中でも特に厳しい難所として知られています。駐車場から本堂まで、標高差約100メートルを一気に登る急勾配の坂道が続き、歩き遍路の方々の間では「真っ縦(まったて)」の愛称で恐れられてきました。
車遍路の場合でも、駐車場から境内まで約400メートル、徒歩15〜20分の急坂を歩く必要があります。「修行の道場」の名にふさわしい厳しさを、身をもって体験できる札所です。
息を切らせながら、何度も立ち止まりながら登った先に待つ本堂は、その苦労を報いるような荘厳さ。まさに修行の場にふさわしい雰囲気です。
天空の寺院、絶景の境内
神峯寺の境内は、標高570メートルの山頂近くにあり、晴れた日には太平洋が一望できます。苦労して登った者だけが味わえる絶景に、遍路の醍醐味を感じる瞬間です。
本尊の十一面観世音菩薩は、弘法大師の作とされ、安産・厄除けの信仰を集めています。境内には大師が爪で掘ったという「爪彫り薬師」の伝説も残されています。
山中の静寂の中、鳥のさえずりと風の音だけが聞こえる環境で参拝すると、日常の喧騒を忘れ、心が洗われるような感覚になります。
参拝のポイント:
- 急坂のため、歩きやすい靴と水分補給を必ず準備
- 休憩しながらゆっくり登る(無理は禁物)
- 足に自信がない方は、タクシー送迎サービス(有料)の利用も検討
- 本堂からの太平洋の眺めは必見
- 下りも膝に負担がかかるため、注意して降りる
アクセス・駐車場
- 駐車場: 有料(約30台、ただし本堂まで徒歩約15〜20分の急坂)
- 宿坊:なし
- 前札所から: 26番金剛頂寺から約33km、車で約1時間30分、徒歩約8時間
- 次札所まで: 28番大日寺まで約40km、車で約1時間、徒歩約10時間
注意点:
- 駐車場から本堂までの坂道は本当に急です。体力に自信がない方は、休憩を取りながらゆっくり登ってください
- 雨天時は足元が滑りやすくなるため、特に注意が必要
- 夏場は熱中症対策を、冬場は防寒対策をしっかりと
まとめ – 土佐国「修行の道場」開始
第24番から27番までの4つの札所を巡り、高知県「修行の道場」の最初の区間を終えました。
室戸岬周辺の札所は、弘法大師が若き日に修行した聖地であり、太平洋の雄大な自然を感じながらの参拝となりました。特に、最後の神峯寺の急坂は、これから続く「修行の道場」の厳しさを予感させるものでした。
この区間のハイライト:
- 弘法大師修行の聖地・室戸岬の絶景(24番最御崎寺)
- 港町の風情と海の守り神(25番津照寺)
- 重要文化財の本堂を持つ西寺(26番金剛頂寺)
- 四国霊場屈指の難所「真っ縦」と天空の絶景(27番神峯寺)
高知県の「修行の道場」は、まだ始まったばかり。これから28番大日寺、31番竹林寺と続き、最難関の37番岩本寺までの長い旅が待っています。
次回は、28番大日寺から31番竹林寺までの区間をご紹介します。
次の記事: 四国お遍路旅行記 – 土佐国(高知)「修行の道場」(第28番〜31番札所)
前の記事: 四国お遍路旅行記 – 阿波国(徳島)「発心の道場」結願(第18番〜23番札所)
シリーズ一覧: 四国お遍路旅行記
旅のワンポイントアドバイス
この区間の注意点
- 23番→24番の移動距離: 県境を越える約75kmの長距離移動。時間に余裕を持って
- 神峯寺の体力消耗: 27番は想像以上に厳しい坂道。次の28番への移動前に十分な休憩を
- 室戸岬周辺の宿泊: この区間で1泊する場合、室戸市内の宿が便利
おすすめの立ち寄りスポット
- 御厨人窟・神明窟: 弘法大師修行の洞窟(24番近く)
- 室戸岬灯台: 国の登録有形文化財
- 室戸世界ジオパークセンター: 地球の歴史を学べる施設


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