はじめに
阿波国(徳島県)の「発心の道場」も後半に入り、第18番から第23番札所までの巡礼を行いました。この区間は「遍路ころがし」と呼ばれる険しい山道が続き、特に第20番鶴林寺と第21番太龍寺は標高の高い山寺として知られています。身体的な試練と共に、精神的な成長を実感できる貴重な体験となりました。
第十八番札所 恩山寺(おんざんじ)



基本情報
- 寺院名: 恩山寺(おんざんじ)
- 宗派: 高野山真言宗
- 御本尊: 薬師如来
- 御真言: おん ころころ せんだり まとうぎ そわか
- 住所: 徳島県小松島市田野町恩山寺谷40
- 電話番号: 0885-33-1218
- 標高: 約70m
- 宿坊: なし
参拝体験
前回の巡礼から日を改め、第18番恩山寺からの巡礼を再開しました。「恩山」という名前の通り、母の恩に感謝する寺として知られています。
薬師如来が御本尊のこちらでは、両親への感謝の気持ちを込めて参拝しました。弘法大師が境内入り口の仁王門近くに、母・玉依御前(たまよりごぜん)を入山させた記念に自ら植えられたとされる「びらん樹」の木が県天然記念物として今も枝を広げて立っています。
納経所では丁寧な対応をいただき、十八番目のお納経(御朱印)を拝受しました。
第十九番札所 立江寺(たつえじ)


基本情報
- 寺院名: 立江寺(たつえじ)
- 宗派: 高野山真言宗
- 御本尊: 延命地蔵菩薩
- 御真言: おん かかかび さんまえい そわか
- 住所: 徳島県小松島市立江町若松13
- 電話番号: 0885-37-1019
- 標高: 約8m
- 宿坊: あり(200人)
参拝体験
恩山寺から車で約15分(徒歩約1時間)で立江寺に到着。「四国の総関所」とも呼ばれる重要な霊場です。
立派な山門をくぐると、広々とした境内が目に入ります。本堂は重厚な造りで、阿波国を締めくくる札所としての威厳を感じさせます。
延命地蔵菩薩が御本尊のこちらでは、これまでの巡礼の無事を感謝し、これからの旅路の安全を祈願しました。
不義をしたお京という女がこの寺に詣り懺悔すると、お京の髪の毛が逆立ち、鐘の緒に巻き上げられて残ったという伝説のお堂。「黒髪堂」もあり、邪心を持つ者を戒める教えが伝えられています。
第二十番札所 鶴林寺(かくりんじ)



基本情報
- 寺院名: 鶴林寺(かくりんじ)
- 宗派: 高野山真言宗
- 御本尊: 地蔵菩薩
- 御真言: おん かかかび さんまえい そわか
- 住所: 徳島県勝浦町生名鷲ヶ尾14
- 電話番号: 0885-42-3020
- 標高: 約470m
- 宿坊: なし
参拝体験
立江寺から車で約30分(徒歩約3時間30分)、標高470mの鶴林寺へ。「一に焼山、二にお鶴、三に太龍」と称される遍路ころがしの一つです。車での移動でしたが、山道は狭く急カーブが続き、運転には細心の注意が必要でした。
山道を登るにつれて、気温が下がり空気が澄んでいくのを感じます。急な坂道や曲がりくねった道が続きますが、周囲の自然の美しさに励まされながら進みました。
境内に到着すると、山の上とは思えないほど立派な本堂と大師堂が迎えてくれます。地蔵菩薩への参拝では、ここまで登ってこられたことへの感謝を込めて手を合わせました。
山頂からの眺望は素晴らしく、境内から望む那賀川の景色は雄大そのものです。険しい道のりを経て辿り着いたからこそ、この景色の美しさが心に深く刻まれました。
第二十一番札所 太龍寺(たいりゅうじ)





基本情報
- 寺院名: 太龍寺(たいりゅうじ)
- 宗派: 高野山真言宗
- 御本尊: 虚空蔵菩薩
- 御真言: のうぼう あきゃしゃ きゃらばや おん ありきゃ まりぼり そわか
- 住所: 徳島県阿南市加茂町龍山2
- 電話番号: 0884-62-2021
- 標高: 約600m
- 宿坊: なし
参拝体験
鶴林寺から車で約20分(徒歩約2時間30分)、標高600mの太龍寺へ。「西の高野」とも称される四国霊場屈指の難所です。現在はロープウェイも運行されており、全長2,775メートルで西日本最長。101人乗り、約10分で山頂まで到達できます。
弘法大師が19歳の時に虚空蔵求聞持法を修行された聖地として知られています。求聞持法とは、虚空蔵菩薩の真言を1日1万回、100日唱えることですべての経典を暗記できるという秘法です。こちらでは、智慧と記憶力の向上を祈願しました。
本堂の前に立つと、深い山中の静寂と霊気に包まれます。若き日の弘法大師がこの地で厳しい修行を積まれたことを思うと、自分自身の修行の甘さを痛感させられます。
「舎心嶽」と呼ばれる岩場があり、大師が修行した場所とされています。また、納経所の隣の持仏堂では、天井に龍が迫力ある睨みをきかせており、神秘的な雰囲気に満ちています。
太龍寺での参拝を通じて、真の修行とは何かを考えさせられる貴重な時間となりました。
第二十二番札所 平等寺(びょうどうじ)








基本情報
- 寺院名: 平等寺(びょうどうじ)
- 宗派: 高野山真言宗
- 御本尊: 薬師如来
- 御真言: おん ころころ せんだり まとうぎ そわか
- 住所: 徳島県阿南市新野町秋山177
- 電話番号: 0884-36-3522
- 標高: 約37m
- 宿坊: なし
参拝体験
太龍寺から車で約25分(徒歩約3時間)、山を下って平等寺に到着しました。別名「白水の井戸」とも呼ばれ、弘法大師が掘ったとされる霊水が有名です。
大師はこの地での修行を志し加持水を求めて井戸を掘られたところ、乳のごとき白い水が湧き溢れました。その霊水で御を清められた大師は百日間護摩行を続けた後に先のお薬師さまの姿を木に刻まれ本尊として奉安し、山号を白き水が湧いたことから白水山(はくすいざん)、寺号を平等寺と定められました。
山門をくぐると、穏やかな雰囲気の境内が広がります。高い山から下りてきた後だけに、平地の寺院の安心感がひときわ感じられました。
薬師如来が御本尊のこちらでは、心身の健康を祈願しました。特にこれまでの山道運転での緊張をほぐし、心を落ち着かせることができました。
境内の「白水の井戸」は今も清らかな水が湧き出ており、霊水として多くの参拝者が訪れます。この水を飲むと万病に効くと伝えられており、「弘法の霊水」として全国に知られています。実際に飲んでみると澄んだ美味しい水でした。
また、「厄除け石」と呼ばれる石があり、自分の年齢の数だけ小石を積むと厄除けになるという信仰があります。丁寧に石を積みながら、厄を落とす気持ちで祈りを捧げました。
第二十三番札所 薬王寺(やくおうじ)



基本情報
- 寺院名: 薬王寺(やくおうじ)
- 宗派: 高野山真言宗
- 御本尊: 厄除薬師如来
- 御真言: おん ころころ せんだり まとうぎ そわか
- 住所: 美波町奥河内寺前285-1
- 電話番号: 0884-77-0023
- 標高: 約28m
- 宿坊: なし
参拝体験
平等寺から車で約30分、阿波国最後の札所、薬王寺に到着しました。「厄除けの寺」として四国はもちろん、全国から多くの参拝者が訪れる名刹です。駐車場も広く整備されており、多くの参拝者で賑わっていました。
駐車場に車を停め、境内へと向かいます。山門の前に立つと、これから阿波国の結願を迎えるという実感が湧いてきました。第1番霊山寺から始まった長い旅路が、ここで一つの区切りを迎えます。
山門から本堂まで続く石段は「厄坂」と呼ばれ、男厄坂42段、女厄坂33段、還暦厄坂61段に分かれています。それぞれの段に一円玉を置きながら登る「一円玉お厄除け」の風習があり、一段一段心を込めて登りました。石段を登りながら、第1番霊山寺から始まった阿波国での巡礼を振り返り、様々な思いが胸に去来しました。
本堂では厄除薬師如来に向かい、御真言「おん ころころ せんだり まとうぎ そわか」を唱えながら、厄除けと健康を祈願しました。多くの参拝者で賑わっており、この寺院の人気の高さを実感しました。阿波国23ヶ寺を無事に巡礼できたことへの感謝の気持ちを込めて、深く頭を垂れました。
大師堂では弘法大師に向かい、これまでの道中を見守ってくださったことへの感謝と、これから始まる土佐国での巡礼の安全を祈願しました。「同行二人」の精神を改めて心に刻みました。
境内の高台からは太平洋を一望でき、青い海と空の境界線が美しく心に残りました。阿波国での巡礼を締めくくるにふさわしい、清々しい景色でした。海の向こうには土佐国が広がっており、次なる旅への期待が高まります。
瑜祇塔(ゆぎとう)という珍しい多宝塔も見どころの一つで、朱色の美しい姿が印象的でした。この塔は医王山の象徴として、境内に優美な姿を見せています。
納経所では温かい対応をいただき、阿波国最後となる二十三番目のお納経(御朱印)を拝受しました。納経帳に押される御朱印を見つめながら、これで徳島県の「発心の道場」23ヶ寺すべてを巡礼したのだという実感が込み上げてきました。
境内を後にする際、もう一度振り返って本堂に手を合わせました。阿波国での学びと成長に深く感謝しながら、次なる土佐国への旅立ちの決意を新たにしました。
一日の振り返り
第18番から第23番札所までの巡礼では、特に第20番鶴林寺と第21番太龍寺への山道運転が印象に残りました。標高500m以上の山寺への道のりは、車での移動とはいえ、狭い山道と急カーブの連続で緊張を強いられました。
しかし、その緊張感のある運転を経て辿り着いた山寺での静寂と霊気は格別で、車遍路ならではの達成感を味わうことができました。また、今回は、21番太龍寺を参拝した後、ふもとの道の駅「鷲の里」(太龍寺ロープウェイ鷲の里駅)で一泊しました。効率的に各札所を巡ることができ、じっくりと参拝する時間を確保できたのはキャンピングカーの利点だと実感しました。
阿波国での巡礼を通じて、「発心」という言葉の意味を少しずつ理解できるようになった気がします。日常の喧騒から離れ、弘法大師の足跡を辿りながら、自分自身と向き合う時間を持つことができました。
いよいよ土佐国へ入り、第24番最御崎寺(ほつみさきじ)からの巡礼が始まります。
阿波国23ヶ寺の巡礼を終えた今、心には充実感と、次への期待が満ちています。南無大師遍照金剛。
巡礼ルートマップ
第18番〜第23番札所巡礼ルート
Google Mapで第18番〜第23番札所ルートを確認
ルート情報
- 総移動距離: 約115km
- 所要時間: 車で約3時間(参拝時間除く)
- 推奨移動手段: 自家用車またはレンタカー
- 注意点: 鶴林寺・太龍寺は山岳路のため、狭い道と急カーブに注意。冬季は路面凍結の可能性あり
阿波国(徳島県)全体の巡礼ルート
Google Mapで第1番〜第23番札所全ルートを確認
阿波国全体のルート情報
- 総移動距離: 約200km
- 総所要時間: 車で約6〜7時間(参拝時間除く)
- 推奨日数: 3〜4日間
- 推奨移動手段: 自家用車またはレンタカー
実用情報
アクセス
- 第18番恩山寺: 駐車場あり(無料)
- 第19番立江寺: 広い駐車場あり(300円)
- 第20番鶴林寺: 山道運転に注意。駐車場あり(志納金制)
- 第21番太龍寺: ロープウェイ山麓駅に駐車場あり(道の駅「鷲の里」)。山頂まで車でも行けるが、狭い山道
- 第22番平等寺: 駐車場あり(無料)
- 第23番薬王寺: 広い駐車場あり
参拝時間
- 一般的に7:00〜17:00(季節により変動あり)
- 納経受付は7:00〜17:00
- 太龍寺ロープウェイ: 8:00〜16:40(20分間隔で運行)大人:2600円
必需品
- 白衣、金剛杖、納経帳、線香、ろうそく
- 山岳寺院用の防寒着(標高が高いため車内外の気温差に注意)
- 駐車場用の小銭(各寺院で100円〜500円程度)
- 薬王寺での一円玉(厄坂用に多めに準備すると良い)
- 飲料水とちょっとした軽食
車遍路のポイント
- 鶴林寺・太龍寺への山道は狭く、対向車とのすれ違いに注意
- カーブミラーを確認し、慎重な運転を心がける
- 山道運転に不安がある場合、太龍寺はロープウェイ利用を推奨
- 各寺院の駐車場は境内に近く、参拝に便利
- ガソリンは山間部に入る前に給油を
巡礼のマナー
- 本堂、大師堂では帽子を脱いで参拝
- 山道では対向車に譲り合いの精神で
- 駐車場では他の参拝者の迷惑にならないように
- 写真撮影は控えめに
- 地元の方々への感謝を忘れずに
おすすめ情報
- 車遍路の場合、一日で第18番から第23番まで巡礼可能
- 薬王寺周辺には食事処や土産物店が充実
- 運転に疲れたら、各所で休憩を取りながら安全運転を
- 道の駅での休憩や車中泊も快適
- 鶴林寺・太龍寺は宿坊もあり、山の空気を満喫したい方におすすめ
阿波国結願後の流れ
- 第23番薬王寺から第24番最御崎寺(土佐国最初の札所)まで: 約75km、車で約2時間・徒歩で約20時間
- 県境を越えて高知県に入ります
- 国道55号線を南下し、太平洋沿いの景色を楽しみながらのドライブ
- 途上に道の駅などの休憩施設あり
阿波国「発心の道場」を終えて
徳島県の阿波国23ヶ寺、「発心の道場」での巡礼を無事に満願することができました。第1番霊山寺から第23番薬王寺まで、それぞれの札所で異なる学びと感動がありました。
「発心」とは、仏道を求める心を起こすこと。この阿波国での巡礼を通じて、日常の中で見失いがちな大切なものに気づき、心を新たにすることができました。
次はいよいよ土佐国(高知県)「修行の道場」へと進みます。弘法大師が「空海」を名乗るきっかけとなった地・室戸岬から最果ての地・足摺岬へ、太平洋沿いの長い道のりが続きます。「修行の道場」という名にふさわしい、さらなる試練と学びが待っているはずです。(第24番〜第39番の16ヶ寺)
弘法大師と共に歩む「同行二人」の精神を胸に、次なる道へと進んでいきます。南無大師遍照金剛。
次回は土佐国(高知県)「修行の道場」、第24番最御崎寺からの体験をお届けする予定です。南無大師遍照金剛。


 
			 
			 
			 
			 
			 
			 
			 
			
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